国際スキー連盟会長選、1票差の激震から新体制へ―FISが直面する「放映権マネー」と「選手ファースト」の危険な綱渡り
2026/27シーズンの幕開けを控え、国際スキー・スノーボード連盟(FIS)は年間報告書『FIS Bulletin 2026』を公開した。紙面を飾る新会長アレクサンダー・オスペルトの「結束(ひとつのFIS)」という言葉の裏には、直前の会長選挙でわずか1票差(65対64)という組織の深い亀裂が横たわっている。

前体制の強権的な商業化路線がストップした今、FISが直面しているのは「放映権収入に依存する財政基盤」と「限界を迎えた選手の肉体」という、長年先送りされてきた構造的矛盾だ。
放映権マネーへの依存――「一元化」をめぐる大国と小国の利害対立
FISおよび各国のスキー連盟にとって、ワールドカップを中心とする大会の放映権収入は最大の生命線だ。世界的なウィンタースポーツ市場の縮小やデジタル配信シフトが進む中、コンテンツとしての価値を高め、巨額のマネーを呼び込むことは連盟運営に欠かせない。
前体制が強硬に推し進めた「放映権のFIS本部一元化」は、自前の放映権ビジネスを持たない小規模連盟にとっては手厚い資金分配につながる希望だった。しかし、長年自ら放映権を管理・収益化してきたスイス、オーストリア、ドイツといった強豪国にとっては「死活問題」であり、既得権を奪われる暴挙として法廷闘争にまで発展した。
新体制は対話による融和路線へ舵を切ったものの、「各国の権利を尊重しながら、いかに連盟全体の商業価値を維持・拡大するか」という難題には、いまだ明確な処方箋が見出せていない。
限界を超える過密日程――悲鳴をあげるトップアスリートたち
放映権ビジネスとスポンサー収入を最大化するための最も安易な手段は、「レース数を増やし、露出を稼ぐこと」だった。その結果として生み出されたのが、過酷を極めるワールドカップのスケジュールだ。

雪不足による直前のキャンセルや会場変更、大陸間を頻繁に行き来するタイトな移動日程は、選手のコンディション調整を極端に困難にした。連戦による疲労蓄積は深刻な大怪我のリスクを跳ね上げ、マルコ・オーデルマットやミカエラ・シフリンら競技を牽引するスーパースターたちが公然と連盟への不信感を口にする事態へと発展した。
「選手が最高のパフォーマンスを見せてこそのエンターテインメントであるはずが、連盟のマネタイズの犠牲になっている」――現場の怒りは沸点に達している。
「レース削減=収入減」のジレンマをどう解くか

新会長オスペルトが掲げる「架け橋」と、実務を担う元世界王者ウルス・レーマン事務総長の手腕に期待が集まる一方、現実は極めて厳しい。
- 日程緩和の代償:選手の安全を守るためにレース数や遠征負担を減らせば、放映権料や賞金総額、ひいては連盟の活動原資が直接削られる。
- 分配の綱引き:前会長を支持した半数の小規模連盟を納得させる支援を維持しつつ、伝統強豪国の自主権をどこまで担保できるか。
「スポーツとアスリートの最優先」と「強固なビジネスモデルの構築」。FIS Bulletinで語られたこの2つの理念は、本質的には互いを食い合う関係にある。
冬の競技シーンがかつてない転換点を迎える中、新体制のFISは選手生命と組織の財布を両立させる着地点を見つけられるのか。2026/27シーズンは、スノースポーツ界の持続可能性を問う試金石となる。
