河野恭介全日本アルペンチーム【勝てる仕組みを作る】
公募制度に応募し、4年・8年という長期的な強化プランを掲げて就任。

オーストリアをはじめとする欧州列強のナショナルチームは、年間およそ30億円ともいわれる潤沢な国家レベルの強化費を誇り、裏山を登れば年中滑走できる氷河スキー場を抱えています。対する日本チームの年間予算はわずか1億円ほど。夏場に雪上トレーニングを行うだけでも、莫大な渡航費と時間をかけ、遠く地球の裏側や欧州の雪山へ海を渡らなければなりません。
資金、地の利、そして年中雪に触れられる環境――並べられた数字と条件だけを見れば、あまりにも不条理で過酷な現実が横たわっています。
しかし、アルペンスキーの歴史が証明しているのは、「予算の額面だけで勝負は決まらない」という事実です。かつて佐々木明選手や皆川賢太郎選手、湯浅直樹選手が欧州の巨頭たちを蹴散らし、凍てつく急斜面で世界の表彰台に登り詰めたように、日本人の繊細な足裏感覚、無駄を削ぎ落とした技術、そして逆境を跳ね返すハングリー精神は、いつの時代も世界の脅威となってきました。
日常的に雪がある強豪国と違い、日本の選手たちにとって「雪上に立てる1日、1本」は、すべてが血肉を削るような貴重な研鑽の場です。だからこそ、その1ターンに注ぎ込まれる集中力と覚悟の密度は、誰よりも深く、鋭いはずです。
いま目指すべきマイルストーンは、明確に定まっています。 それは2030年、フランス冬季オリンピック。
取材後記
アルペンスキーにおいて、後方スタートから前へ這い上がる道のりは決して平坦ではありません。しかし、一人の天才のひらめきに頼るのではなく、指導体制を磨き、次世代へ続く道を切り拓く「勝てる仕組み」を着実に回し始めることで、チームとしての底力は確実に上がっています。焦ることなく、W杯のスタート順を一つひとつこじ開け、ポイントを積み重ね、2030年のフレンチアルプスで最高に研ぎ澄まされた滑りを爆発させてほしいと願っています。
どれほど予算に差があろうと、スタートバーを蹴り出した瞬間、すべてのレーサーは同じ一本の氷のコース、同じ一本の時計と対峙します。
逆境を恐れず、世界最高峰の斜面に挑み続けるジャパンチームの選手・スタッフの皆さん。その過酷な日々の鍛錬が、2030年の大舞台で世界を驚かせる軌跡を描くことを信じています。確かな一歩を刻み続ける皆さんの滑りを、心から応援しています。
