ノルディック複合の五輪除外に揺れる世界。「お家芸」日本の不都合な真実
カテゴリー:ノルディック / オリンピック・特集
第1回シャモニー大会(1924年)から1世紀。ヨーロッパで「King of Ski(スキーの王様)」と称えられてきたノルディックスキー複合が、オリンピックから姿を消すことになった。
IOC(国際オリンピック委員会)による「2030年フランス・アルプス冬季五輪からの除外」という決定は、単なる1種目の見直しにとどまらず、冬季スポーツのあり方そのものを揺るがす波紋を広げています。各国の激しい反発、「日本はお家芸と呼びながら、2018年2月の白馬大会を最後に、自国で複合W杯を一度も開催できていない」という事実です。日本の構造的問題に迫ります。
渦巻く批判:各国の反応と「なぜ複合だけが標的に」という疑問
除外決定を受け、国際スキー・スノーボード連盟(FIS)や各国連盟、アスリートたちからは失望と怒りの声が相次いでいます。
■ 欧州強豪国(ノルウェー・ドイツ・オーストリア):「スキー文化の冒涜」
複合競技の本場である北欧・中欧では、IOCの商業主義・エンタメ偏重に対する激しい批判が噴出しました。
「100年続く原点とも言える競技を切り捨てることは、冬季五輪が自らのアイデンティティを捨てることだ」「派手な新種目ばかりを優先し、過酷な鍛錬を要するクラシック種目を軽視している」と、メディアや往年の名選手たちがIOCの姿勢を強く非難しています。
■ 中堅国(フランス・エストニアなど):「小規模国の挑戦権を奪うな」
次回開催国であるフランスのスキー連盟は「スポーツ界全体にとっての大きな痛手」と声明を発表。また、エストニアなど限られた種目で世界に挑む中堅国からも、「数千万人のファンを持つ伝統種目を外すのは不当極まりない」「競技の世界的存続を危機に晒す愚策だ」と怒りの声が上がっています。
■ 日本:「なぜ複合だけが狙い撃ちにされるのか」
渡部暁斗選手をはじめとする国内関係者が投げかけるのは、「不公平さ」への強い疑問です。IOCは除外理由に「一部の国へのメダル偏重」を挙げましたが、ソリ競技(ボブスレー・リュージュ・スケルトン)など、同様に数カ国の強豪国が独占している種目は他にも存在します。
「女子種目を追加してジェンダー平等を果たすべきだったのに、種目そのものを排除するのは本末転倒ではないか」という無念さが滲みます。
「お家芸」の不都合な真実:なぜ日本でW杯が開けないのか?
しかし、怒りや同情の一方で、日本のスキー界自身が直視しなければならない厳しい現実があります。
それは、「日本はお家芸と呼びながら、2018年2月の白馬大会を最後に、自国で複合W杯を一度も開催できていない」という事実です。
単独のスキージャンプ(大倉山など)は毎冬札幌でW杯が継続されているにもかかわらず、なぜ複合は呼べないのか。そこには複合特有の過酷なコスト構造があります。
1. 「ジャンプ+クロカン」の二重コストと雪不足
複合はジャンプ台に加え、FIS公認規格を満たす過酷なアップダウンを備えたクロスカントリーコースを同時に整備・運営する必要があります。近年の暖冬により、長距離コース全体に人工降雪機を回す電気代・燃料費が高騰、単独自治体が負担できる限界をとうに超えています。
2. 円安と「欧州チーム渡航費負担」の重圧
欧州偏重のFISツアーにおいて、アジア遠征を実施する際は、開催国側が欧州各国の選手・スタッフの渡航・滞在費を一部補助する規程が存在します。記録的な円安と欧州のインフレ・渡航費高騰が直撃し、数千万円から億円規模にのぼる遠征負担金を日本側が工面できなくなっています。
3. スポンサー不足とメディア露出の悪循環
欧州では国営放送で生中継され高視聴率を稼ぐ人気コンテンツですが、日本国内では深夜のダイジェストや有料配信が中心。高額な開催費用に見合う国内スポンサー企業が集まらない興行破綻の状態が続いています。
結果として、「渡部暁斗選手らトップ選手が個人の努力で欧州を転戦し、五輪でメダルを持ち帰る(=お家芸と称賛される)」一方で、「足元の国内市場や興行インフラは衰退しきっている」という深刻なねじれが長年放置されてきました。
「2030年だけ」ではない。復帰へのシナリオはあるのか?
今回の決定は「2030年大会限定の1回限りの休止」ではありません。基本プログラムからの完全除外であり、2034年ソルトレークシティー大会で自動的に復活する保証は一切ありません。
未来を繋ぐ唯一の希望は、2028年ドロミティ・ヴァルテッリーナ冬季ユース五輪で種目が維持される点、そしてIOCの新枠組みを通じた「追加種目としての再立候補」の道が残されている点です。
しかし、復帰を勝ち取るためには、感情論ではなく具体的な課題解決が不可欠です。
女子複合の世界的普及と競技レベルの底上げ
観戦しやすい新フォーマット(マススタートやスーパーコンパクト等)の確立
日本を含む非欧州圏での持続可能な大会運営モデルの再構築
自国で世界最高峰の戦いを見せられないままでは、次世代の子供たちが憧れを抱くことも叶いません。オリンピック除外という最大の危機を前に、世界、そして日本のスキー界が自らの足元を見つめ直し、抜本的な改革に踏み切れるかが今問われています。
