FISが2028年「スキー世界選手権」追加開催を電撃見送り――絶対王者オデルマットの猛反発と連盟の巨額赤字がもたらした早期決着

国際スキー・スノーボード連盟(FIS)はジュネーブで開催された理事会において、検討されていた2028年の追加世界選手権(いわゆる五輪のない偶数年に大規模大会を創設する構想)の開催を見送ることを正式に決定した。2032年以降の導入構想自体は議題として残されたものの、直近での新設プランは白紙に戻された形となる。
この異例とも言えるスピーディーな断念決定の背景には、競技の顔であるトップ選手たちからの痛烈な反発と、連盟が直面する深刻な財政危機という2つの決定的な要因があった。
■ 「個人的にはクソだと思う」――王者オデルマットが放った強烈な一撃
見送りの最大の引き金となったのは、アルペンスキー界の絶対王者、マルコ・オデルマット(スイス)をはじめとする現役トップ選手たちの猛烈な批判である。
FISが放映権や商業的利益の拡大を狙い「空白の年」にもビッグイベントをねじ込もうとしたことに対し、オデルマットは地元スイスメディアの取材で「個人的にはクソだと思う(Finde ich persönlich einen Scheiss)」と強い言葉で一蹴。フランホ・フォン・アルメンら同僚選手たちもこれに同調した。
オデルマットは、メダルや大会の希少価値が失われる「メダルのインフレ化」に強い危機感を示している。
「世界選手権のメダルは、滅多に獲れないからこそ価値がある。毎年何かしらの世界タイトルがかかるようになれば、その重みは薄れてしまう」
さらに、怪我人が続出する過密日程の中で、4年に一度だけ訪れる「世界大会のない年(ワールドカップ総合争いに集中し、身体をケアできる年)」を奪うことへの懸念を訴え、選手の負担を無視した連盟の商業偏重路線に真っ向からノーを突きつけた。
■ なぜ決定は「速やか」に行われたのか? 早期決着の裏にある新体制と巨額赤字
通常、こうした大規模大会の招致や見送りには長い議論を要するが、今回FISが電撃的に撤回を決めた背景には「連盟の深刻な台所事情」と「トップ交代に伴う方針転換」がある。
- 数百万規模の構造的赤字の表面化FISの最新の決算において、数百万フラン(数億円規模)に上る構造的赤字を抱えていることが判明した。新規のメガイベントをわずか2年後の2028年に立ち上げるための資金的余裕は連盟に一切残されていなかった。
- オスペルト新会長による「前体制の拡大路線」の是正今年6月の会長選で前会長ヨハン・エリアシュを僅差で破って就任したアレクサンダー・オスペルト新会長は、就任直後から人件費や管理コストの徹底的な削減、前体制下の戦略的ミスの是正を掲げている。財政再建が至上命題となる中、リスクの高い新イベントを強行する理由は皆無だった。
- トップスターと主要連盟からの全面的な不支持オデルマットという競技界最大のインフルエンサーに加え、スイスなど強豪国のスキー連盟が揃って反旗を翻したことで、これ以上議論を長引かせても連盟側の孤立が深まるだけと判断され、速やかな白紙化が決断された。
■ ヒルシャーの復帰決定と、守られた「伝統」
なお、同日のFIS理事会では、2024年末の前十字靭帯断裂から復帰を目指す通算8度総合王者マルセル・ヒルシャーに対し、来シーズンのワールドカップ出場を可能にするワイルドカードを付与することも承認された。
往年のレジェンドの復帰という明るい話題の一方で、選手たちの団結と新体制の現実的判断により、伝統ある競技カレンダーとメダルの重みは辛うじて守られた格好だ。FISは2032年以降の可能性を完全には排除していないものの、過密日程と財政難という難題をクリアしない限り、新たな世界選手権の道筋は依然として険しい。
