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ポーラ・モルツァン(アメリカ)が掴んだ「149戦目の初栄冠」

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暗転した氷河、翻弄された絶対女王――ゼルデン開幕戦を分けた「天候激変」と、18年目のマテリアル変更と夫婦の絆で掴んだポーラ・モルツァン(アメリカ)執念のワールドカップ初勝利

FISアルペンスキー・ワールドカップ開幕戦、オーストリア・ゼルデンのレッテンバッハ氷河で行われた女子大回転(GS)。自然の急変が絶対女王を呑み込み、泥臭く足元を突き詰めてきたベテランが頂点に立つ――アルペンレースの残酷さと美しきドラマが凝縮された一戦となった。

通算149戦目にして悲願のワールドカップ初優勝を果たしたのは、アメリカの32歳、ポーラ・モルツァン。この大逆転劇を演出したのは、激変した雪面コンディション、マテリアル電撃変更、そして何より夫であり専属サービスマンであるライアン・ムーニー(Ryan Mooney)氏との二人三脚の挑戦だった。

快晴の1本目:女王シフリンの圧倒的ラップと、虎視眈々のモルツァン

午前中の1本目は、澄み渡る秋晴れの青空と硬くパックされたハードバーン。この高速バーンで圧倒的なスピードを披露したのは絶対女王ミカエラ・シフリンだった。

淀みのないカービングで圧巻のトップタイムを叩き出し、通算111勝目に向けて視界は盤石に見えた。一方のモルツァンは、トップと0秒59差の5位。新天地でのスキーのフィーリングを確かめながら、静かに2本目への勝機を窺っていた。

降り積もる新雪とフラットライト:女王を阻んだ「2本目の罠」

だが、午後の2本目に突入すると氷河の上空は急激に暗転。陰影を奪い去るフラットライトがコースを包み、やがて視界を遮る降雪が始まった。

この天候激変が、雪面の挙動を完全に変えてしまう。下地の硬い氷の上に湿った新雪が薄く堆積し、雪面抵抗が急増。前半の緩斜面や中斜面でスキーの「走り」が鈍り、スピードを乗せられない選手たちが次々とタイムロスを喫する展開となった。

最終出走となったシフリンも、この悪条件の餌食となる。スタート直後からスキーが新雪に捉えられ、本来なら滑走性を生かして加速するはずの前半セクションで推進力を稼げない。視界不良も重なってラインを攻めきれず、2本目で大きくタイムを落として7位へと沈む波乱の幕切れとなった。

ロシニョールとの決別、そして夫ライアンとの「二人三脚」

このタフな雪面をアグレッシブにねじ伏せ、わずか「0秒01」差で逆転優勝をもぎ取ったモルツァン。その最大の勝因は、今季敢行した大胆なマテリアル変更と、夫ライアン氏のチューンナップにあった。

写真 2025年世界選手権

モルツァンはジュニア時代から18年間愛用してきたロシニョール(Rossignol)を離れ、オフシーズンにマルセル・ヒルシャーが立ち上げた気鋭のブランド「VAN DEER-Red Bull Sports」へと電撃移籍。同ブランド初の女性契約選手として迎え入れられた。30代を迎えてからのスキーチェンジは適応にリスクも伴うが、彼女には絶対の信頼を寄せるパートナーがいた。

サービスマンで夫のライアン・ムーニー氏は、彼女がかつて代表落ちして資金難に陥った時代、遠征費用を稼ぐため夏場にラフティングガイドをしながら共にヨーロッパを転戦した苦楽の共有者であり、現在は彼女の板をすべて任されている専属サービスマンだ。

1本目から2本目にかけて急変した「湿った新雪とフラットライト」という極限状態に対し、サービスマンのライアンが選択したストラクチャーとワックスの選択が完璧に機能。グリップ力と雪抜けの良さを極限まで高めたVAN DEERの板は、他選手が苦しんだ前半セクションでも失速せず、モルツァンが迷わずアグレッシブに攻め込める足元を作り上げた。

149戦目の結実、氷壁に響いた歓喜の絶叫

電光掲示板の頂点に自身の名前が灯った瞬間、モルツァンは氷壁に歓喜の叫びを響かせた。

代表落選、大学スキーでのリスタート、夫婦での手作り遠征、そして32歳での大胆なスキー板変更。女王シフリンをも翻弄したゼルデンの雪嵐を切り裂いたのは、リスクを恐れずに進化を選んだ決断と、過酷な道を共に歩んできた夫婦の揺るぎない絆だった。

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