AIで安全と現場の負担軽減を両立、スキー場は成長産業へ

なぜヨーロッパは「AI」に巨額投資するのか
2025–26シーズン、世界中のスキーヤー・スノーボーダーを集め、全体のスキー場来場者数が再び5,600万人を突破したスキー大国・フランス。円安の恩恵でインバウンド特需に沸く日本から見れば「ヨーロッパは放っておいても客が集まる羨ましい市場」に映るかもしれない。
しかし、現実は真逆だ。地球規模の気候変動による雪不足、跳ね上がる電気・燃料代、そして深刻化するオペレーター不足。彼らが世界一の地位を守り続けている理由は、歴史や規模だけではない。「徹底したAI・デジタル技術の現場実装による、強靭なコスト構造と安全性の確立」にある。
その最前線が、標高2,300mに位置する欧州最高所のリゾート「ヴァル・トランス(Val Thorens)」だ。
第1章:ヴァル・トランスが証明した「リフトのAI自律監視」と劇的な省人化
ヴァル・トランスのリフト運行会社(SETAM)は、搬器の運行管理に最先端のコンピュータビジョン(画像認識AI)を組み込み、長年の課題だった「乗降時のヒューマンエラー」を根底から変えた。

- ミリ秒単位で検知する「第2の目」乗り場・降り場に配置されたAI解析カメラが、乗客の姿勢・骨格をリアルタイムトラッキング。乗車失敗、セーフティバーの下ろし忘れ、降り場での転倒を即座に判定し、人の操作を待たずミリ秒単位でリフトを自動減速・緊急停止させる。
- 「監視員」から「おもてなし・介助」への役割シフトこれまで1基あたり複数名が張り付いていた監視業務をAIが肩代わりすることで、中間駅や降り場の大幅な省人化・ワンオペレーション化を実現。スタッフは画面を凝視する極度の精神的負荷から解放され、初心者や子どもへの対面サポートへ集中できるようになった。
- 壊れる前に直す「予知保全(CBM)」と電力カット索道モーターの振動・温度データをIoTとAIで常時監視し、シーズン中の突発故障(ダウンタイム)を未然に防ぐ。さらに混雑予測と連動してリフト速度を自動制御し、莫大な動力電力を削減している。
さらにゲレンデ全体では、AI画像認識・サーマルカメラを積んだドローンが全自動ドックから10秒でスクランブル発進する体制を整備。雪崩や遭難の際、パトロール隊が危険な斜面へ足を踏み入れる前に要救助者を特定するなど、レスキューの省力化と二次災害防止でも圧倒的な成果を上げている。
第2章:Prinothがもたらす「雪のミリ単位マネジメント」
リフトと並ぶスキー場コストの二大巨頭が「人工降雪」と「圧雪整備」だ。ここで欧州リゾートが標準装備としているのが、イタリアの雄・Prinoth(プリノート)社をはじめとするスマート圧雪車フリートである。

- Leica連携による3D積雪深測定衛星測位(GNSS)と夏場の3D地形データを照合し、運転席のモニターに「今、どこに何cmの雪があるか」をリアルタイムでカラーマップ表示。削りすぎや無駄な押し込みをゼロにする。
- 無駄な人工雪を撒かない=電気代・水資源の最小化「雪が足りない場所」だけが可視化されるため、過剰な降雪機の稼働を抑止。これだけでリゾート全体のエネルギーコストを15〜30%削減するケースも珍しくない。
- PRINOTH Connectによる運行最適化全車両の走行ルート、燃料消費、エンジン負荷をAIが解析。無駄な重複走行をなくし、1時間あたり数十リットルを消費する軽油代を大幅カットする。経験の浅い若手オペレーターでもベテラン同等のバーンを仕上げられるため、熟練ドライバー不足に対する決定打となっている。
第3章:日本最高地点「横手山・渋峠」の決断——日本が学ぶべき変革のシナリオ
これまで日本の多くのゲレンデは、「豊富な天然雪」と「地元の職人的オペレーターの勘」に依存してきた。しかし、人口減少と温暖化が進む今、そのモデルは限界を迎えつつある。
この構造的危機にいち早く手を打ったのが、日本最高地点(標高2,307m)を誇る志賀高原「横手山・渋峠スキー場」だ。
同スキー場は、Prinothの先進的な圧雪車フリートと最新テクノロジーの導入を決定。雪が豊富な厳冬期だけでなく、11月のシーズン立ち上げから5月下旬のゴールデンウィーク過ぎまで「いかに貴重な雪を守り、効率よく均してロングシーズン営業を成立させるか」という課題に対し、欧州と同等のデータ駆動型ゲレンデマネジメントで挑んでいる。
日本のリゾートが欧州から学ぶべき本質は、「AI導入は単なるコスト削減(守り)ではなく、安全性と雪質を高めて来場者満足度と客単価を引き上げる『攻めの投資』である」という点だ。
AIと共に拓く、日本スノーリゾートの新章
ヴァル・トランスが5,600万人市場で実証した「AIによる事故防止と省人化」、そして横手山・渋峠が踏み出した「最新フリートによる雪のサイエンス」。
「人が足りないからリフトを減便する」「暖冬だからクローズを早める」という縮小再生産の時代は終わった。テクノロジーで安全と現場の負担軽減を両立し、持続可能なスノーマウンテンをつくる——2025–26シーズンを経て、日本のスキービジネスも本格的なAI変革のゲートを潜り抜けた。
